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2016年 04月 23日
福島県に見られる小児甲状腺がんは放射能によるものなのか? /津田敏秀氏・鈴木元氏の公開討論から考える

信州宮本塾のメーリングリストに数回に分けて配信した文章をまとめます。d0164519_05291639.jpg


3月30日 配信  津田敏秀氏と鈴木元氏の公開討論会

3月27日、栃木県大田原市で行われた「どうみる?甲状腺がん 講演と討論」の動画をご覧になられたでしょうか。福島県の県民健康調査で見つかる小児甲状腺がんに対する見方が真っ向から異なる二人の医師による講演と討論として、企画段階から一部で注目されていました。疫学の津田敏秀氏については皆様もご存知と思います。一方の、鈴木元氏は http://www.iuhw.ac.jp/daigakuin/faculty/health_welfare/kokusai/staff/suzuki_gen.html

事故当初の講演などは、どちらかというと「安全宣伝」となる内容でした。福島県での専門家会議での発言もなんどかあります。今回の講演では、とくに栃木県に健康調査を広げた場合に「過剰診断」となる懸念を述べています。

全編動画が http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2038  と

http://iwj.co.jp/wj/open/archives/293672 で見られます。前者の方が見やすいのですが、会の冒頭部分ががかなりカットされています。

     治療のガイドラインは適切なのか?

鈴木氏の講演は、これまで宮本塾で私が述べてきた問題点を網羅するもので、この会が福島県で行われていたら大きな波紋を呼んでいたでしょう。福島県で行われている甲状腺がんの手術の一部は、「過剰治療」に当たる可能性にも言及しています。この点については、宮本塾での学習会などで私は「治療法が確立していない状態で悉皆調査をすることの倫理的問題」として取り上げましたが、調査される側に起きる影響の問題です。福島医大鈴木真一氏は一貫して、手術はガイドラインに沿って行っていると述べてきました。そのとおりでしょうが、問題はそのガイドラインが、きわめて稀に起きる小児甲状腺がんの発症例(臨床癌)をもとにつくられているのではないでしょうか。今回のような悉皆調査で掘り起こされた小さな、あるいはごく初期の、まだ症状を現していない癌に適用してよいものなのか。今回の講演でも、親の判断により、経過観察とすべきものが手術されている可能性に触れています。2巡目で発見された癌では、1巡目に較べて手術割合の低さがその傍証とされ、救いでもあるとしています。

     時間不足だった公開討論会

津田氏から「多発論」がでた時からなんども指摘してきましたが、残念ながら津田氏は、このような対話を深化させるには不向きな性格です。今回の会はもう1時間でも長ければ、さらに問題点が明確になっていただろうし、論者に例えば西尾正道氏などが加わっていれば、争点がより相対視出来たのではないかと思います。それでも、この動画はなんどでもくり返し読み込んで、理解を深めることに使えると思います。特にこれまで、「放射能の影響で小児甲状腺がんが多発している」と述べたことのある人には必見でしょう。皆様のご意見をお聞かせいただければと思います。


3月31日 配信  子どもを対象とする悉皆調査の倫理的問題/治療方針が確立しているのか?

T様 コメントありがとうございます。

毎日新聞に書かれている津金氏の見解に較べると、鈴木元氏は「過剰診断」の可能性を少し大きく見ていると思います。放射線の影響でも、過剰診断でもないとすると、多発の原因は何かという問題について、現在一部では「エコー」そのものの影響が主張されていますが、一巡目で多く見つかっていることを考えると無理がありそうです。しかし、検査によって障害が起きるということは過去に多くあって、例えば子どもの頃受けた胸部レントゲン検査や胃のレントゲン検査の問題など、リスク・ベネフィットを明確にした上で、それも希望者のみで組織的強制力が働かないようにしないと倫理的問題になるでしょう。その点、子どもがリスクを受けるにもかかわらず、判断するのは親権者や学校というようなケースは、特に注意を要するでしょう。

     一巡目と二巡目(本格調査)で異なる手術割合

精神的不安・葛藤の問題は、リスクが確定的(濃淡がある)なのか確率的なのかにもよるでしょうが、一番重要なのはマネージメント方法が確立しているかどうかではないでしょうか。今回の講演会と新聞記事から疑念を感じたことは、一巡目と二巡目ではマネージメントが変わったのではないかということです。手術の割合が二巡目では大きく下がっている理由が、「忙しくて間に合っていない」のであるならその説明があるはずです。一巡目で、ガイドラインから外れてはいるが親の希望で手術に踏み切ったのは3例のみという数字を見ると、二巡目で急にそれが増えたとは思えません。この間、ガイドラインの見直しが行われているのではないかと推測します。稀に発症する進行性の小児甲状腺がんをもとに作られたガイドラインが、今回は適用できないということになったのではないでしょうか。


もしそうだとすると、一巡目で見つかって手術した中に、手術の必要がない例や経過観察とすべき例が多数含まれてしまったことになります。福島県としては「過剰治療」の指摘は一番避けたいところでしょう。特派員協会での最後の質疑にたいする星座長の歯切れの悪さからもそんな感じを受けました。今回の鈴木元氏は、福島県・医大からは比較的フリーに振る舞える位置にいると思います。


3月31日 追配信  津田氏、津金氏/二人の疫学者の見解比較(毎日新聞)

「疫学」を取り上げた昨年の宮本塾学習会で、福島の小児甲状腺がんに対する疫学者の両論として取り上げました津金氏と津田氏の見解をまとめた記事です。

http://mainichi.jp/articles/20160307/ddm/010/040/073000c

3月7日の記事ですので、近いうちに削除される可能性があり、取り急ぎご紹介します。


4月2日 配信  乳幼児には甲状腺がんが発見されていない/チェルノブイリとの違い

Tさんの疑問「放射線の影響とは考えにくい」と津金氏が述べる理由ですが、放射線の影響を完全に否定してるわけではなく、疫学的にはまだ見えていないという主張と思います。福島県健康調査に関係している多くの医学者が、「考えにくい」と言う根拠は、疫学サイドでは「地域的な放射線量とガン発見数の相関が見られない」という点ですが、津田氏は検査時期で補正すると相関すると述べています。むしろ、根拠は病理学サイドで、見つかったガンのタイプがチェルノブイリと異なり「成人タイプ」であり、乳幼児の発見がない。思春期以降に自然発生するタイプではないかという指摘。遺伝子からも「放射線による切断と再接合のエラー」の問題。これらの点については、データが公表されていないように思いますので、関係者しか判断できないのかもしれません。

     「多発」は前倒し発見なのか?

過剰診断だという判断では、20年分を前倒しして見つけているという主張がありますが、それなら2巡目は20分の1に減るのではと思います。しかし、2巡目も多発している理由。これについては今回は出ませんでしたが、発生したり消えたりする可能性が一部で言われていました。また、手術の割合が減っていることの理由推測が述べられています。甲状腺の全摘が少ない、放射性ヨウ素を積極的に使っていないなど、過剰治療を恐れているのではないかという指摘も外部からあります。鈴木氏の話は具体的指摘が多いのに較べて、津田氏の講演は、「疫学とは」「疫学ではこうなる」という主張に終始し、少ない時間を無駄につぶした印象があります(過去の講演や議論の多くも)。多発という現在起きている事実の評価と原因・仕組みを検証する場で、「事実はこうだ」と繰り返しているように見えます。


鈴木氏の主張が正しいか、その整合性は議論すべきでしょうが、問題点を網羅的に指摘していると言えます。多くの問題点自体は一年前の「県民健康調査」検討委員会 第6回「甲状腺検査評価部会」(平成27年3月24日開催)においてほぼ出ているもので、整理してデータと論拠を補足したものと考えます。

https://www.youtube.com/watch?v=qjYu5j1xLTw

この評価部会の後、鈴木真一氏が退任しますが、その前にどの会合だったか確認が出来ませんが、手術方針はガイドライン通りに行っていると強く主張していた印象があります。過剰診断だけではなく「過剰治療」の指摘が県立医大以外からでていたのではないでしょうか。

     調査そのものが新たなリスクを生む可能性

もし、そのような背景があったとしたら、上記の評価部会における春日文子氏の発言(25分頃)は倫理的に問題があるでしょう。「(過剰な)リスク負担を国民全体で受け止めなければならない」ともっともらしく述べていますが、実際は国民は負担しておらず、手術された子どもが一方的に負担させられている現状をねじ曲げています。その上で、検査の継続の理由付けを述べています。私にはこれが科学における倫理欠如の典型例に思えますが、春日氏の姿勢は、塾会員の一部でも支持されています。


「放射線の影響で多発」とする津田氏が登場した時、その講演と本から科学者としての態度に疑問を感じ、水俣病関係者の間で津田氏はどのように見られているのか、宮本先生にうかがったことがありました。その後の塾でも、水俣病を「食中毒事件と捉えると明確になる」という津田氏の考えを紹介したことがあります。疫学は短時間で原因を推定し、すばやく被害拡大をとめることが出来る反面、アルツハイマーとアルミを例に、状況証拠からの推定はえん罪につながる可能性も考えておく必要があることを述べたと思います。被害発生初期に予防的マネージメントをとるのに有効でしょうが、その後の被害修復、被害者の治療には被害のメカニズムを解明しないと、時には二次被害を引き起こすことがあるでしょう。公害裁判における金銭的被害救済追求では原因証明に有効ですが、津田氏にはそれが生み出したモンスター的側面をも感じます。


4月8日 配信  芽細胞発癌説 /一巡目の手術には手術不要例が含まれるのか

先日来、投稿を続けてきました福島県健康調査の問題で新しい情報が挙っています。「芽細胞発癌説」という、従来の発癌メカニズムとは異なる考え方で、福島県の小児甲状腺ガン多発」を説明できるというものです。この考え方自体は既に15年前から提出され評価されていましたので、放射線の影響を否定するために作られた新説ではありません。私には芽細胞発癌説を説明する力はありませんので、下記のサイトをお読みいただければと思います。

http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/labo/www/CRT/GCC.htm

この考え方が注目されたきっかけは、上記の文章最後の方にあります「8 芽細胞発癌を支持する最近の臨床的エビデンス ー 福島原発事故後の小児甲状腺癌の解釈も含めて」が解りやすいでしょう。他にも検索するといくつかのサイトが見つかりますが、

http://togetter.com/li/958928

この考え方をとると、2巡目の癌手術割合が減ったことが理解できます。また、これまでの手術の中にはかなりの不要な「過剰治療」例が含まれるという推測も成り立ちます。この説が10年前に既に評価されていたとすると、本来は1巡目で気づくべきだったとも言えるでしょう。


もちろん、この説が福島であてはまるのか、現在はまだ確定できないでしょうし、まして私に判断出来ることではありません。もしこの通りだということになった場合は、不要な手術でQOLを低下された子どもたちがいる一方で、津田疫学が「えん罪」を生んだことになります。放射線リスクを過大評価した事自体は「確率的影響」に対して「予防的」対応をしたということで済まされてしまうかもしれませんが、避難者のリスク比較に大きな影響を与えてしまった結果、経済的困難、家族別居、離婚・・・さまざまに個々の家族の判断をゆがめてしまった可能性があります。


福島医大、福島県から「個人情報の保護」を理由に、このことを外部の専門家が判断するための充分な情報が開示されていないようですが、一年前の評価部会では既に関係者は気づいていたのではないかとも思われます。


以上、素人の推測にすぎませんが、いかがでしょうか。


4月14日 配信  低年齢層と高年齢層で異なる小児甲状腺がん?

福島県の小児甲状腺がん検診において、疫学が有効なのかについて、続けて考えてみたいと思います。


3月31日のMLメールで毎日新聞の記事を紹介しました。http://mainichi.jp/articles/20160307/ddm/010/040/073000c

 この記事は一般向けに書かれているためでしょうが、甲状腺がんの発見率、発症率、罹患率、有病率などの概念を分別していません。生涯発症しないまま、あるいは発生したり消えたりする有病期間の長いがんの、発症率と有病率を比較することが出来るのでしょうか。

 さらに、この記事では小児甲状腺がんを一つの病気としていますが、チェルノブイリで見つかった低年齢層のがんと福島の小児でも高年齢層のがんは、異なるタイプのがんではないかという問題を考えていません。津田氏が主張する「これまでは100万人に数人」というのは低年齢層のがんの「発症率」であって、高年齢層の癌(成人タイプ)の場合は、年齢という交絡因子を考えなければならない上に、年齢によって増加する期間をすぎると、減少するという複雑な経過(自然史)をたどっている可能性があります。

     多くの人に見つかる発症していない甲状腺がん

 ここで参考になるのは、他の原因で死亡した人の剖検での甲状腺がん有病率が数%~数十%もあるということです。小児のうちに発症する稀なたちの悪いがんと、背後にある膨大な、年齢に影響される、多くの場合生涯発症しないタイプの異なるがんを較べているのではないでしょうか。そのように考えると、津田氏が指摘するチェルノブイリで事故後4~5年以内に発見した比較的高年齢層の小児甲状腺がんは、後者だったのではないかという推測が成り立ちます。それがどのタイプのがんだったのか、その後に発見された低年齢層のがんと同じだったのかの確認が必要です。また、事故後に生まれた子どもでは発生していないという指摘も、生後比較的低年齢の間の検診なのか、思春期以降まで追跡しているのかが不明です。


原因も経過・結果も異なる二つの病気(異なるタイプの甲状腺がん)を疫学で追究することに意味があるのでしょうか。そこは、食中毒と大きく異なると思います。それをあきらかにするのは、疫学サイドではなく、病理学の領域ではないでしょうか。

     スクリーニング実施上の原則 

一年前に宮本塾で「疫学」と取り上げた際の参考にした「はじめて学ぶ やさしい疫学」(南江堂)には、「スクリーニング実施上の原則」として10項目挙げている中に

*頻度が高い、あるいは低くても早期に治療する必要がある疾病。

*早期に発見した場合に適切な治療方法がある場合のみ、実施。

*目的とする疾病の自然史がわかっている。

*スクリーニングの意味・内容が受信者に周知。過度の期待を防ぐこと。

などが挙げられています。放射線の影響があるかどうかを知る目的でスクリーニングを実施すること、特に受診者が子どもの場合の倫理的問題から、スクリーニング実施の妥当性について考えなければならないと思います。


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by maystorm-j | 2016-04-23 05:00 | 社会 | Comments(0)