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2020年 05月 11日
パンデミックとの戦いを「戦争だ」と叫ぶことの愚かしさ  その4
中国の春節が終わった2月、ネットには中国と韓国を貶める記述があふれていました。中国に対してはウィルス製造や散布の陰謀論も見られ、韓国に対しては政権と国民をバカにする者が多数。支援物資を送る自治体や組織がある反面、優越意識丸出しで罵倒するのは個人のネットユーザーだったようです。いつから隣人の不幸を喜ぶ国民になったのでしょうか。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と書かれて驕りが生じた頃でしょうか。北朝鮮の飢餓が報じられた時、余って処分に困っていた古米を送ればいいという話が、真面目に報道されたこともありました。
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そのうち、中国の流行はおさえられて新規の感染は減少し、韓国も徹底した検査と感染者の追跡と隔離で次第に流行が収まり、世界中からお手本とみられるようになります。今になっても検査が進まない日本は、逆に世界から対策の悪い例として見られ、ネットでは一転して「韓国にできることがなぜ日本でできないのか」と言われるようになっています。この言葉にも「韓国ごときにできることが・・・」という蔑視が含まれているでしょう。では、どうして韓国にできることが日本ではできないのか、その理由を具体的に指摘する論述は意外に少ないようです。

「ものつくり日本」とか「技術立国日本」などと上から言われるようになった頃、それはすでに衰えを自覚していたことの裏返しだったのでしょう。韓国や台湾に追い上げられているからこそ、そんな掛け声が必要だった。そして、すでに多くの分野で、ものつくりの技術は追い抜かれ、去年はコブシを振り上げたけれど、もう喧嘩を買ってももらえず、喧嘩の当事者にされてた企業は顧客を失い丸損です。

国民一人当たりのGDPは韓国に抜かれ、大学卒の初任給も追い越された現在、新しい感染症と戦う技術も意欲も上り調子の国民と、劣化を反省せず掛け声だけの国民では、エネルギーの差を感じます。長い軍事独裁政治が続いた後、多くの犠牲を乗り越えて民主化した韓国民の意識と、政権交代を袋叩きにして葬った日本国民とでは、意識に大きな隔たりがあるのでしょう。

良い悪いを問わずにもう一つ理由を挙げるとすれば、韓国も台湾も中国も戦争ができる国です。パンデミックとの戦いは戦争だと多くの国や政治家や専門家が声を挙げましたが、この三国はそれ以前からほんとうの戦争への臨戦態勢ができています。何十万、何百万という死傷者が出る戦争の可能性にさらされている国です。医師や看護師の動員、医療のロジスティックの態勢が日頃から整えられているのはあたりまえです。日本での自然災害とは桁違いに大きい犠牲者を覚悟して態勢を作っていることでしょう。それがそのまま良いこととは思いませんが、準備も心構えもないままに、上から「戦争だ!」と号令されたのでは、国民はお上が指示する作戦に盲従するか、勝手に敵を探して右往左往するか。しかしすでに3ヶ月が過ぎて、もうそろそろ国民一人一人が自身の考えつくりあげても良いのではないでしょうか。

感染症との戦いは、敵味方に別れる戦争にはなりません。「心を一つに」、「一丸となって」と言われても、感染した人は周囲からいきなり、自分に病気をうつす「敵」として見られてしまいます。感染していなくても流行している地域から来た人は「敵」と見られて排除が起きています。ウィルスを敵として戦っているはずが、感染した人が敵にされます。「大切な人を守るために戦う」と言いながらも、実際は弱い立場の人が犠牲になるのが戦争です。COVID-19では高齢者や病気を持っている人に犠牲が集中しています。国内での死亡者のかなりの割合が病院内や施設内に集中的に起きています。全面戦争の掛け声より、リスクの高い人々、医療施設、福祉施設、ライフラインや物流などを重点的に防衛する戦い方を考えた方が良いのではないでしょうか。


by maystorm-j | 2020-05-11 21:51 | 社会


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