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2015年 07月 20日
火山噴火に見る「リスク評価」と「リスク管理」
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写真は6月20日の浅間山です。噴煙は西南西に流れているようです。現在も噴火警戒レベル2とされて、火口からおおよそ2kmが立ち入り禁止になっています。
前の記事で書いた火山のリスクについて、もう少し掘り下げて考えます。

気象庁による噴火警戒レベルについて、2007年の法改正の問題と、現実に起きている不具合について、火山学者の間では批判が起きています。

 群馬大学/早川氏  https://twitter.com/HayakawaYukio

 静岡大学/小山氏  https://twitter.com/usa_hakase

 鹿児島大学/井村氏  https://twitter.com/tigers_1964

のツイッターを読むと(フォローするより直接上記サイトのタイムラインで読む方がおすすめ)、その辺の事情を具体的に論じています。


「噴火警戒レベル」というと、一般の人は科学的なリスク評価に基づくものと思いがちです。浅間山では過去おおくの死者の上に、観測の積み重ねと地元自治体との協議の長い歴史があり、科学的なリスク評価と地元の事情を加味したリスク管理がかなり整合的に設定されています。山小屋、観光施設等の配置を見れば、リスクを無視した開発が行われなかったことが見られます。箱根ではそこが混乱しています。浅間と違い、箱根には気象庁の観測の歴史はなく、気象庁には専門の火山学者はいないようです。


今回の噴火では、箱根の警戒レベルの方が一段高い3です。にも関わらず、立ち入り禁止は箱根の方が小さいのは、それ以上広げると住民を避難させ、公共施設や商業施設を閉鎖しなければならないという事情によるものと思われます。禁止区域のすぐ外側では、あたかも危険がないかのごとくに行政は発信していますが、区域が科学的に設定されたものではなく、レベル2の浅間なみに広げると、「居住区域に重大な・・・」のレベル4または5にする必要があります。行政上の配慮で区域を設定しているにもかかわらず、区域の外側では(科学的に)危険がないから、箱根を応援してくださいと観光客の来訪を呼びかけています。科学を装いながら、正常性バイアス心理を助長する、リスクコミュニケーションですね。リスク評価(科学)ではなく、気象庁がリスク管理に踏み込んでいます。


リスク管理は、リスク/ベネフィットを災害が起きる具体的な場所で考える必要があります。リスクは災害という形で現実に起きるまでなかなか目に見えにくいものですが、ベネフィットは「目の前の人参」のようにぶら下がっていて、しかも「人参も馬も」行政、商業、農業、個人の暮らしなど様々な当事者と内容があります。災害が起きるまでは、ベネフィットの方が圧倒的に現実感を持ってしまうでしょう。命の大切さは、実際に失われるまで気づかないとい問題があります。


観察・観測、リスク評価、リスク比較、さらに予測・予想不可能性を含む科学の部分は独立した議論とベネフィットに流されない情報発信が基本だと私は思います。その点、現在の気象庁の態度は、一般に誤解を生む危険なものと考えます。自治体が気象庁や他の研究者の意見を参考にしながら、地元の災害対策能力や住民の状況などを加味して、災害対策をたてるのが筋だと思います。それには、日頃から行政と住民と科学が協議を重ねている事が必要ですが、箱根では野放図な開発を許してきた結果が、整合性のとれない現状をもたらしたと思います。


リスク/ベネフィットの問題は、福島の「帰還問題」に凝縮されて現れています。様々な当事者の間で、議論が噛み合ないまま混乱が進んでいます。観察体制もでたらめ、リスク評価は整理されないままそれぞれが都合良く解釈しています。その結果、科学の領域を無視したマネージメントが上からは強制され、下からは科学に基づかない見てみない振りと同調圧力、逆にリスク比較を拒否する「恐怖」が発言されます。




by maystorm-j | 2015-07-20 06:19 | 自然


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