人気ブログランキング | 話題のタグを見る
2014年 10月 18日
里山と野生動物・・・経済林・自然林の配置
里山と野生動物・・・経済林・自然林の配置_d0164519_21044152.jpg
今朝は午前0時から氷点下。秋の花も終わりになります。一週間ほどめ前に仕事場で見かけた野菊とコスモス。右はヨメナ、真ん中はシオンでしょう。コスモスのとまっているのはヒラタアブの仲間と思いますが、正確な名前はわかりません。蜂のように見えますが、捕まえてもたぶん刺さないでしょう。トンボは少しだけ残っていますが、カンタンなどの虫の声は聞こえません。今年は時期が短かったようです。9月中旬に3度まで下がった日があったせいかもしれません。

仕事が忙しくて、あまり出歩く時間がありませんが、信州では山のクリやドングリが不作のようです。クマの出没情報を聞きます。山に餌がないから野生動物が増える。農業被害が増えたのは、針葉樹ばかり植えて木の実がならなくなったからだ、と言う主張をよく聞きます。いろいろと話が混乱しているように思えます。

山の餌と野生動物
まず第一に、餌が少ないと増える動物というのは、あり得ません。長期的に餌がなければ動物は減ります。ですから、山に針葉樹を植えたからと言って、動物の総数が増えるはずはありません。豊な広葉樹の奥山が大面積で皆伐されて、スギやヒノキの人工林に変わるという事は、最近はあまり見られません。しかし、短期的には餌を求めて移動する動物はいます。クリやドングリは年によって豊凶がありますので、不作の年には冬眠前のクマが里に移動する事はあります。一年の間でも、冬場の餌が少ない奥山や、積雪の多い地域にいるシカの群れが標高に低い所に移動することは見られます。意外に思われるかもしれませんが、夏の山は餌の端境期になります。若葉の春、サクラやクワの実などの実がなる初夏の後、秋の実りまでの間、エサ不足になる大型動物が農地に出るようになります。

季節的な移動、中期的な餌の増減、長期的な生息環境の変化などが、ごちゃ混ぜになって語られているようです。餌がなくてかわいそうだからと、ドングリやクリを撒きに来る都会の人は論外としても、山にドングリの木を植える団体は今もかなりあります。どれだけの効果があるのか判りませんが、他所から種を持って来て蒔くのは、作物を収穫して後片付けをする農地ならいいのですが、自然界に他所から持って来る事にはいくつかの問題があります。クリでもドングリでも種や品種、亜種の違いもありますし、同じ亜種でも地域によって長年の間に環境に適応して、遺伝子の違いが生じています。それを不用意に混ぜてしまうことを、遺伝子汚染といい、けっして望ましい事ではありません。

さらに、植物にも様々な病気があります。寄生虫や細菌などもついています。その土地に長く生育してきたものなら、耐性がある場合もありますが、他所から持ち込まれた病気や寄生虫によって、もとからあった耐性のないものがやられてしまう事も考えられます。その土地に生えていたものを増やす事が基本ですが、野ネズミやリスやカケスなど、ドングリを運んで広げる動物はけっこういるものです。北海道の自然公園で、ドングリを都会の人々に送り、都会のベランダや庭で育ててもらった苗をふたたび北海道に送り返してもらい、自然公園内に植えるという運動がラジオで紹介された事があります。往復の輸送費とガソリン、多大な手間ひまの割にはひどく効果の少ない事業です。

子ども連れの団体が種や苗木を植える場所は、どうしても道路から近いところになりますが、針葉樹を切り草地にする事で、シカを呼び寄せる可能性もあります。道路沿いにクリやドングリがなって、それに導かれて動物が里までやって来るようになるかもしれません。農業被害や人身被害を起こす野生動物は、人間と共棲ではなく、棲み分け=分棲を基本とするべきでしょう。人里に加害獣を呼び寄せておきながら、追い上げや駆除、防護柵、電気柵などにコストをかけるのは、野生動物と人間双方にとって負担です。

里山や山間部農地
都会の人々に近年、里山再生運動が人気です。地方から大都市へと就職した団塊世代が退職期を迎え、子ども時代への郷愁にかき立てられることがあるでしょう。子育て世代は、子どもを自然に触れさせたいという思いもあります。荒廃した里山周辺に住む人々にとっては、薮に潜むクマやイノシシ被害対策という面もあります。薮を刈り払い、広葉樹を中心とした雑木林を育成する里山の再生運動が注目されています。

しかし、注目度の高さと普遍性は一致しません。むしろ、希少性故にニュースとなる面があります。全国の荒廃した里山や山間地の農地のどれだけに割合が、里山再生の対象になるのでしょうか。人手が豊富で持続的に美しい里山を維持できるなら、それは様々な価値を持つでしょう。しかし、増え続ける山間地の限界集落周辺で可能でしょうか。都市部に接した里山では、相対的に人手や資本力が見込まれますが、農村地帯と接する里山では、農業者の高齢化、副業化と、一方で進められる大規模化機械化の動きの中で、薪炭の利用や堆肥利用など、里山としてどれだけ利用しながら維持できるのか疑問です。事業費を投入して里山を再生しても、どれだけの効果があるのか、美観や郷愁だけならいずれ無理がきます。豊かな広葉樹林は、餌も豊富で野生動物をむしろ人里に引き寄せる結果になりかねません。

里山を経済林に 奥山に自然林を
自然大好き、里山は美しいと思う人々に不人気な人工林・針葉樹林ですが、建築材としてのスギ・ヒノキはひじょうに優秀な木材となります。密植されて手入れされていないスギ林が荒廃し、花粉症の原因になり、スギなんか全部切ってしまえと言う極論も聞かれます。枝打ちや間伐費用が出ないため優良材を育てられず、輸入木材に押されて売れない針葉樹林は荒れています。木造建築を全廃するならともかく、建築材としてはツーバイフォーの輸入材に較べて、スギ・ヒノキは強度・耐久性・美観ともに優れています。地震や台風が多く、温度湿度の変化が大きい日本の風土に適した木材です。100年以上経った日本建築の内部環境の良さは、時折訪れる古民家に入ると体感できます。

拡大造林で奥地に植えた針葉樹林が荒れるのは、手入れや伐出費用が高いこともあります。林道や作業道の整備は山奥で傾斜がきつければ費用がかさみます。作業能率も低くなります。標高が高くなれば気温は下がり、成長は遅くなります。むしろ人里近くの低山帯や里山こそ、木材生産に向いています。日本の気候は植物が生長する季節に充分な気温と日射量があり、適度な気温と水分は土壌の発達を促します。鬱蒼とした熱帯雨林ではさぞかし木の成長が速いと思うかもしれませんが、一度伐採すると強い陽射しと高温で土壌有機物の分解は速く、スコールで洗い流されて、森林が再生する前に環境が破壊される事があります。亜寒帯の針葉樹林も成長が遅く、どちらも略奪林業という性格があります。

モンスーン地帯にある日本の山林は林業経営にはひじょうに有利な条件にあり、木材の国内需要は豊富です。最近、優良材の輸出も見られます。金があるから他国から買うという姿勢は、金がなくなったらどうするのか、他国の環境を破壊し続けることが出来るのか、将来を考えたら国産材を育てる以外の良い選択があるとも思えません。

美しい里山を維持できるところは、多少の費用をかけても多くの人に利益と楽しみを提供し続ければ良いと思います。一方で広大な面積で拡大し続けている、荒廃する里山、山間地の傾斜農地、周辺林、低山林は、大胆に用途を変更していくことが必要ではないでしょうか。木材の自由化から半世紀ほどが経ちます。木材貿易の見直しを含めて、林業の再生を里山・低山帯を中心に進める時期ではないでしょうか。

人里と奥山の間に針葉樹林を配置する事で、野生動物に対するバッファー・ゾーンとなる可能性もあります。餌の豊富な広葉樹林より、餌の少ない針葉樹林を緩衝地帯として利用する考え方です。自然林は基本的には奥山にと考えます。もちろんそれだけで多様な問題が解決するわけではありません。野生動物が亜高山帯や高山帯に進出して、生態系を破壊している問題もあります。里山や低山帯には複雑な所有状況もあります。長期の経営になる林業と相続の問題もあります。地域による具体的な配置や対策が必要なことは言うまでもありませんが、ここらで基本的な考え方を見直す事もいかがでしょうか。








by maystorm-j | 2014-10-18 08:54 | 自然


<< 信州宮本塾講演会と、台風で延期...      本日13日の信州宮本塾読書会は... >>