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2013年 01月 13日
選挙の敗北を考える  その7 インターネットでの勝敗は?
私たちは原発に反対する運動の中で、従来のように政党や組合などに組織されていない一人一人の市民が、インターネットを通じて連帯し行動する可能性を見いだしました。その背景には、アラブの春やウォール街オキュパイ運動への羨望もあり、規制のマスメディアが原子力村の一員として事故や放射能報道において隠蔽と歪曲を続けたことに対する怒りもありました。私たちはインターネットを駆使して選挙闘争でも十分に闘っていると思っていたでしょう。しかし、6〜7割の国民が原発に反対しているから、反原発を争点にすれば闘えるという期待も、投票率が高いという当日の予想も大きくはずれました。安倍政権は逆に、次に参院選ではインターネットによる選挙運動を解禁しようと言い始めました。ネット媒体における自分たちの力を私達は過大評価しているようです。

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数日前、孫崎享著/日本の「情報と外交」(PHP新書)を読み終えました。これまで、孫崎氏の本は何冊か読んでいますが、それらが木になった果実であるのに対して、この本は木そのものを見ているようでした。つまり、これまで書かれた内容がどのような姿勢で、どのような活動、解析作業、表現方法を通じて得られたものなのか、孫崎氏自身を語ったものです。

孫崎氏が思い描く社会が私とは多少違うとしても、学ぶことの多い内容です。その一つ、情報を伝えたいときに15秒で話せ、要旨を一枚にまとめろ、という話があります。一番だいじなことを15秒で話しきる事が重要というのは、話す側の都合ではなく、受け取る側を意識した言葉です。情報は伝わらなければ何の価値もありません。どんなに正しい情報でも、相手が聞いてくれなければ情報は死にます。私には耳の痛い指摘です。140字にまとめるツイッターはいい訓練になります。隣のおばあさんに話すつもりで話し、向いの中学生に読んでもらうつもりで書く事にします。

選挙の結果を、まさかこんなはずはない、と思った人も多かったでしょう。ネットに依存する人ほど、このような敗北を考えていなかったように思います。反対に、マスメディアは自民党の圧勝を予想していました。当選者数の予想はメディアによってデコボコはありましたが、大きな流れを見誤ることはありませんでした。私たちの情報収集、情報解析、方針決定の過程にいくつもの欠陥があったと考えられます。『日本の「情報と外交」』を読もうと思ったのもそこにあります。

SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)での闘いは、使っている道具は確かに時代の最先端を行くものですが、そこで繰り広げられる戦闘はなんだか第一次大戦頃の塹壕線に近い気がします。双方が一定の距離をおいて塹壕を掘り拡げ、一日に何回か弾が飛んでくると撃ち返す。時には大砲も飛んできますが、白兵戦にはなりません。塹壕の中では味方同士が狭い範囲で会話したり交流しています。敵の塹壕の背後にどれだけの兵力・兵站・軍備・経済・・何も見えません。味方の総合力も見えていないかもしれません。

ネットで本を買っていると判らないのですが、本屋に行くと原発や放射能関連の本が少なくなって、隣国に対する緊張や経済成長を謳う本が増えている事に気づきます。そして、それらを含めた社会問題を扱う本の量の何十倍もの漫画・ファッション雑誌、料理本、時代劇、タレントもの、旅行もの・・・の書架に人が集まっている事に気づくはずです。ネットに籠っていると、多くの国民が見えず、情報が偏り、状況を見誤ることになります。

安倍政権がネット選挙の解禁を言い出したという事は、そこでも彼らは勝てると判断した事を意味します。衆院の3分の2を制し、半年後の参院選に向けて負ける方法を言い出すとは思えません。自民党の選挙では電通が大きな役割を果たします。リサーチ能力が命のような業界のトップ企業です。ネット解禁で勝てるという以上に、むしろ雪崩をうって大勝する可能性を見ているでしょう。

もともと保守性の強い高齢層には、ネット解禁の影響はほとんどないでしょう。棄権の多い若年層は、スマートフォンでネットにつながっている割合が高く、小さな画面では感情をシンプルに煽る呼びかけが爆発的に伝播する可能性があります。選挙直前に尖閣諸島で衝突が起きれば、ネットは沸騰するでしょう。相手は広告業界のトップです。シンプルなキャッチコピー、5秒、15秒、30秒のコマーシャルで、受け手を引きつけることにかけてはプロ中のプロです。

巧言(こうげん)令色鮮(すくな)し仁(じん) 論語の言葉です。人間性を破壊する政治だからこそ、彼らは巧言と令色にかけてきます。たこ壷から見える狭い青空しか見ていないと、ネットの戦でも惨敗するでしょう。

by maystorm-j | 2013-01-13 19:49 | 社会


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