2011年 06月 04日
早朝4時のNHK ラジオでニュースの後、いろんな人がゆっくり語る番組があります。今頃の季節はもう明るくなっていて、すこしだらけて聞いている事が多いのですが、冬の間はまっくらできびしい寒さの中、さえざえとした気分で聞いていました。今朝は内橋克人さんが、子ども時代から新聞記者になるまでを語っていました。3月12日に放送予定だった録音でしたが、震災で見送られていたものです。 敗戦間際の神戸空襲のとき、12才だった内橋さんはたまたま盲腸炎の手術で入院していて、自分が入る予定だった防空壕の位置で、一人家に残されていた姉の世話のために来ていた近所の親しいおばさんが、自分のかわりに焼夷弾の攻撃で亡くなった。その事が自分の人生の出発点であるという、その話は以前もっと詳しく、たぶん岩波の月刊誌「世界」で読んだ記憶があります。 戦争はある日突然に始まるものではなく、いつの間にかそれしかないというように思い込ませれていく過程がある事。それは日本だけではなく、戦前日本で多くの仕事をし、戦後もまた日本に戻り多くの仕事を残した建築家レイモンドが、戦争中はアメリカで日本の木造建築の知識を生かして米軍の焼夷弾開発に協力したこと。別の空襲の時、避難所になっていた校庭に林立する焼夷弾の残骸と校庭のすみの塀に寄りかかって亡くなっていた大勢の人々の記憶。淡々と静かに語るのが内橋さんのスタイルです。 戦後、新聞記者になった内橋さんが先輩記者達から教わった三つの戒めは、 攻める側にカメラを据えるな 自分の目で確かめろ 上を向いて歩くような奴に、仕事師はいない 最初はジャーナリストとしての立ち位置の問題です。常に攻められている側から報道するということは、特に戦争報道において議論されてきたことですが、公害・薬害・差別の現場でも報道に問われ続けてきました。今回の原発事故でも、マスメディアが圏外に逃げて、戦争の現場に飛び込んで報道してきた人たちを中心に、フリーのジャーナリストが真っ先に現場報道を送ってきました。 私のように現場に行かないで考える場合、もちろんそれでいいと言う事ではありませんが、ともかく何かを理解するために時間をかけるようにと思っています。現場では一瞬のうちに理解できることも、2次資料から理解するのには、慎重に根拠や裏付け、一貫性などの検証が必要です。今はネットを通じて、編集されたものではない、生の映像が配信されることにも助けられます。政府発表だけを信じ、さらにそこから受けの良さそうなものだけを流すマスメディアは、何かを理解するためにはほとんど役に立ちません。 「上を向いて・・・」という言葉は、ちょっと誤解されそうですが、もちろん「涙がこぼれないように・・・」という意味ではありません。会社や社会の上ばかり見ているようでは、いい仕事はできないという意味です。内橋さんは「頂点同調主義から離れろ」という、久野収さんの言葉を紹介しています。正しく理解出来ているか自信はありませんが、社会のトップに同調することで安心したり、自分を正当化する事をいさめているのだと思います。頂点同調主義から社会の熱狂的な等質化が起きて、人はそこから落伍する事に恐怖を感じる。戦争に至る道が作られていくという話です。 「原発から自然エネルギーへ」という方向には、もちろん賛成です。しかし、今起きているエネルギー変換の流れの一部には、攻める側を強く感じるものが含まれています。東北の被災地や遊休農地をソーラー発電事業の草狩り場と捉える攻めの論理が強くないでしょうか? 都会の莫大な電気需要を満たすために、東北の被災地や全国の中山間地を正義の旗を振り回して攻めることは、札束を振り回して攻めた原発と、攻められる側にとってどれほどの違いがあるのか、もちろん安全という違いはあるのですが、いま最低限言える事は「熱狂」しないで欲しい、攻められる側がゆっくり考えられるまで待ってほしいという事です。 今むしろ都会の人に望む事は、一度原発をすべて止めて、その結果起きる事をあらゆる面から検証・想定して、対策を講じて見る事ではないでしょうか。絶えず電気の供給力と消費のバランスをリアルタイムでみる事から始めて、需要のピークに対する節電方法を徹底する事、停電にそなえて命に関わる病院や交通インフラなどの自家発電能力を高める事。電気を大量消費して原発を地方に押し付けてきた都会が、まずは原発のない暮らし方を試してみる事ではないでしょうか。「三丁目の夕日」まで戻らなくても、バブルの直前までちょこっと戻ればすむのではないでしょうか。電化製品の多くも、20年前よりかなり省エネになっていますし、案外快適に乗り切れるかもしれません。 特別の節電をしなくても原発なしでギリギリ乗り切れるという計算もあります。しかし,大量生産・大量消費から、今や生産は海外へ移り、大量輸入・大量消費という不可能な経済システムの下で呻吟するより、この際、生活や社会の仕組みを変えてみる方が楽しそうです。
by maystorm-j
| 2011-06-04 08:26
| 社会
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