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2011年 05月 14日
5月10日の菅首相記者会見「エネルギー政策見直し」  5月14日 2011年
浜岡原発の一時停止に続いて、菅首相は10日に記者会見を開きました。多くのマスメディアは、その中の「エネルギー政策全体の見直し議論を進めたい」という言葉に飛びついて報道しています。この下に、菅首相の会見動画をリンクさせますが、首相の顔を見るより、動画の下に掲載されている会見の言葉を読んだ方がわかりやすいでしょう。

5月10日 菅首相記者会見http://www.kantei.go.jp/jp/kan/statement/201105/10kaiken.html

たしかに、記者の質問に対しても、「しかし、今回の大きな事故が起きたことによって、この従来決まっているエネルギー基本計画は、一旦白紙に戻して議論をする必要があるだろうと、このように考えております。」と首相は答えています。ここで述べている「従来決まっているエネルギー基本計画」というのは、2002年に制定された「エネルギー基本法」の翌年、経産省でつくられた「エネルギー基本計画」とその後の改訂http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004657/energy.htmlをさすものと思われます。その中でも、民主党政権になったから改訂された平成22年6月のエネルギー基本計画を覗いてみます。

覗いてみますと簡単に言いましたが、65ページに及ぶ文章を読み解くのは容易ではありません。3回ほどとおして見ましたが、総花的というか虹色というか、何でも書いてありますが未来の具体的イメージがなかなかつかめません。その意味では、今回の菅首相の会見内容には、何も新しいことはなく、すでに基本計画に盛り込まれています。

長くなりますが、首相会見を引用します。

「こうした中で、今後のエネルギー政策についていろいろと議論が巻き起きております。まず原子力については、何よりも安全性をしっかりと確保するということが重要であります。そしてこの原子力と化石燃料というものが、これまで特に電力においては大きな2つの柱として活用されていました。これに加えて今回の事故を踏まえて、また、地球温暖化の問題も踏まえて、あと2つの柱が重要だと考えております。その1つは太陽、風力、バイオマスといった再生可能な自然エネルギーを基幹エネルギーの1つに加えていく、そのことであります。

 そしてもう一つは省エネ、エネルギーをたくさん使う社会の在り方がこのままでいいのか。いろいろな工夫によって、あるいはいろいろな社会の在り方を選択することによって、エネルギーを今ほどは使わない省エネ社会をつくっていく。このことが私はもう一つのエネルギー政策の柱に成りうると、このように考えております。

 そういった意味でこれまでの原子力については安全性を、そして化石燃料についてはCO2の削減をしっかり進めていくと同時に、自然エネルギーと省エネというものをもう2つの柱として、そこにこれまで以上に大きな力を注いでいくべきだと、このような考え方でエネルギー政策全体の見直しの議論を進めてまいりたいと、このように考えております。」

エネルギー政策の見直しと言いながら、昨年の基本計画からは一歩も出る事なく、「原子力の安全性確保」を4つの柱の第1に据えているのは、目の前の破綻を無視した、従来の継続にすぎません。あえて言うなら「省エネ」を4番目の柱にしていますが、それはすでに「エコ商品」「省エネ商品」という形で定着しているとも言えますので、とりわけ新しいものでもないでしょう。原子力エネルギーに対する本質的な論議を回避し、むしろ脱原発の方向性を拒絶する宣言に思えます。

電気に限っていうなら、基本計画に書かれている様々な発電を保障するのには、様々な発電を「定額で全量を買い取る」制度と、様々な発電方法で作られた電気を消費者が自由に選べる送配電システムの、二つの重要な課題があります。この2つがなければ、実際には消費者が食べられない「絵に描いた餅」で終ります。

「定額で全量買い取り」については、3月11日に法案の閣議決定がありましたが、震災でそのままになっているようです。買い取り価格決定の問題など、今後法案の内容を注視する必要がありそうです。一方、「送配電の自由化」については、政府も電力業界も猛烈に抵抗するでしょう。地域独占の体制が残る限り、消費者が自由に電気(発電方法)を選ぶ事ができません。例えて言うなら、無農薬米、ブランド米、輸入米、地元米などなどの様々な種類と価格の米を、自由に選ぶ事ができず、一つのチェーン店で一種類にブレンドされた米しか、消費者が買えないようなものです。

原発事故の補償が大きな問題になっています。税金が使われるのか、料金が値上げされるのか、国民が企業の責任を負担させられることが起きるのかもしれません。政府が本気で「エネルギー政策の見直し」をする気があるかないかは、発電・送電を分離するかどうかが判断の目安になるでしょう。賠償しきれない東電を破産させた上で、発電部門だけ再生し、送電は国有化した上で、消費者の自由な選択を保障し、地域分散型の発電・送電システム、スマートグリット化、などなどの徹底的な議論・検証と制度改革を進めない限り、何も変わらないでしょう。東電の役員報酬や首相の給料の問題に矮小化しようとする菅首相に期待するのは無理です。

原発事故は周辺の住民にたいへんな被害を負わせていますが、その他の国民にも大なり小なり様々な形で被害が及んでいます。その上、今後の賠償過程でも負担がくる可能性があります。菅首相個人のいい加減な「見直し」ではなく、国民の議論を通じて新しく「電気のあり方」を構築しないかぎり、「汚れた高い」電力を押し売りされながら、次の原発事故におびえて暮らし続けることになるのでしょう。

by maystorm-j | 2011-05-14 07:00 | 社会


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