2011年 03月 30日
食品の放射能汚染基準 緩和は農家の「こころ」を壊す  3月30日 2011年
福島原発周辺地域の放射能汚染が進むにつれて、そこで生産された農産物にも汚染が確認され、出荷停止などの措置がとられています。基準値以下であっても、市場や小売りの段階で買われず、農家には大きな打撃になっています。食料自給率が低いということは、もともと日本の農業はぎりぎりのところで維持されてきたということです。ショックを吸収するだけの余裕に乏しく、兼業農家も被災地では産業が崩壊していたり極度の不景気で、農外収入にたよることも難しいでしょう。収穫直前の作物が出荷出来ないとわかって、自殺した農民の悲しみは、もの作りを生業としている人でなくとも、伝わるものがあると思います。

農業団体や自治体からは、暫定基準の緩和を求める動きがありましたが、政府はとりあえず現在の暫定値を維持すると発表しました。このやり取りを見聞きしてきた方々は、せっかく作った農産物が売れてほしいという人情と、長期的には健康被害が出る可能性を不安に思う意識の間で、気持ちが揺れているのではないでしょうか。作ったものが売れない農家も、基準値以下であっても放射能汚染した食品を食べる消費者も、どちらも原発事故の被害者であって、被害者同士の利害が反してしまうのはとても残念なことです。暫定値のままで基準値を科学的に精査せず、生産者・消費者双方が納得するような説明を怠り、基準値をこえた場合の対処法や補償を明確にしてこなかった政治の責任と言わざるをえません。日本の原発では今回のような事故が起きないという前提が、間違っていたわけです。

30数年前、信州に移住し子育ての最中は、それほど厳密ではありませんでしたが、農薬に汚染されていない食品を、と考えていました。当時から、農家では出荷用に農薬を使って虫食いのない見た目きれいな野菜と、自家用や都会の孫子に食べさせる農薬の少ないものと、分けて作るのが見られました。放射能汚染ではそんなこともできません。降下した放射性物質はある程度洗い落とせるかもしれませんが、今後土壌汚染が進めば、根から作物内に取り込まれたり、畜産・酪農では動物体内に蓄積・濃縮されることもあります。土壌から取り除こうにも、持って行き場もなく、化学的に分解する事も出来ないのが放射性物質です。

いつまで、どれぐらいの放射性物質が吐き出されるのか、また気象条件によってもその行方が違うでしょうが、最終的にかなりの面積が当分の間、農業不適地となる事を考える必要がありそうです。人情に流されて(というよりは、補償費用を減らすために)政府が基準値を甘くすれば、国民全体の健康に長期的影響が出るだけでなく、疑心暗鬼から国産の農産物全体へ国民に不信をいだかせ、日本の農産物に対する海外の信用をなくし、日本の農業を一層崩壊させてしまうでしょう。

被害補償を徹底すること、長期的健康被害を考慮した厳しい基準を徹底すること、その両面を生産者・消費者双方にわかりやすく説明・周知させる事が、いま政府がするべきことと思います。その上で、土壌汚染が当分農業に不適と判断される地域の農家で、農業を続ける意思のある人には、移住の斡旋をすること。日本中いたるところに耕作放棄地があります。国で土地を借り上げて、移住農家に貸し出すこと。移住を余儀なくされた事に対する現金補償と、農業再生の資金を貸し出す事。

長年耕作し、土作りをしてきた農地を捨てるのはとてもつらいことと思います。隣付き合いや先祖のお墓もあるでしょう。しかし、仕事ができないまま先行きがまるでわからない状態でいるのは、身分保障のない自営業にとって、一番こたえます。「今のところで農業ができないなら、かならずどこかで出来るようにします」という「安心」を発信して欲しい。

自分の作ったものに誇りを持ちたい・・・誰しもが思うことです。農薬を使った野菜を孫には食べさせたくないと思った農家は、たとえ基準値を下回っても放射能汚染したものを孫には食べさせたくないでしょう。買ってくれた人の健康を害するかもしれないと思いながら、出荷せざるを得ないような状況を続けるのは、生産者の「こころ」を破壊してしまいます。



 追記
3月26日、たんぽぽ舍の講演会で槌田敦さんが、最後の方で農地汚染について少し語られています。USTREAM [ http://www.ustream.tv/recorded/13568868 ] で見る事ができます。これまで何度か紹介してきました原子力資料情報室に対し、槌田さんは批判的な立場で反原発の発言をされています。どちらが正しいか、私には判定出来ませんが、槌田さんも具体的に論じていますので、きちんと受け止めて考えたいと思います。同じ講演会で、広瀬隆さんは槌田さんの解説にいくつかの点で批判しています。(広瀬隆さんの講演 USTREAM)そのような相互批判が活発に行われることも、現在重要なことと思います。お二人とも、それぞれの経験とデータに基づいて、かなり思い切った発言をしています。受け取る側は、これまでの情報や知識と較べながら、自分の頭でしっかり考える必要があります。政府・保安院・東電の発表のように、なにも知らない限られたメディアの記者とだけと会見し、突っ込んだ質疑もないままに、メディアがそれを垂れ流すしくみは、国民を愚弄するものと考えます。
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by maystorm-j | 2011-03-30 07:44 | 社会 | Comments(0)


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