2015年 10月 07日
9月28日の記事 「海ゆかば」と「山路こえて」から考える戦争と日本のキリスト教 に、信州宮本塾のTさんからコメントをいただきました。そのコメントに対する私の返信と、その後の意見交換を、私のメールでご紹介します。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10月4日 Tさんへのメール 信時潔氏の情報、ありがとうございます。ご紹介いただきました「研究ガイド」一部拝見しました。 ウィキの情報では、戦後作曲を控えていたように書かれていましたが、膨大な数の校歌などの作曲をしていたのですね。まだ聞いたことがありませんが、軽井沢高校の校歌も含まれていました。 宗教者とともに芸術家の戦争協力問題は、批判や弾劾すると言うことではなく、一般国民に較べてその心情の軌跡がたどり易いという意味で、検証の対象として見直したいと思っています。先日の雑談の折りに、高村光太郎の話題が出ました。戦中の戦争協力と戦後の蟄居謹慎という態度は、どちらも時流に乗る姿勢であり、自己検証をしない「坊主懺悔」に過ぎないと思います。若い頃、高村光雲はすごいなと感じましたが、光太郎には「智恵子抄」など、今の言い方では「上から目線」の不快感しか残っていません。 芸術家の才能と言うのはどうしてもバランスの悪いものですね。一点に才能が集中するほど、全体を俯瞰し解析することが出来なくなるケースが多いような気がします。ヨーロッパの音楽家など、過去の検証からかも知れませんが、多彩でスポーツや人文・社会科学にも取り組む人が多いのですが、日本の音楽教育は純粋培養の面が強いですね。 研究ガイドにちらっとですが、熊谷守一との交流が書かれています。若い頃、わりと好きな画家で、よく見ていました。子供の頃、近所に守一の弟子という画家がいて、その家に出入りし縁側でお菓子や果物をいただいてていたこともあります。 コメントをいただいて、いろいろ思い出すこともありました。信時像が少し具体的に感じられました。ありがとうございます。今朝の軽井沢は5度。そろそろ霜が降りそうです。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 同4日にはTさんから返信をいただき、身近なところでは望月高校の校歌も作曲していることをご指摘いただきました。Tさんからは「当時それぞれ表現の自由・信教の自由がどのように守られたのか、あるいは制限されたのか、それに対してどのように対応したのか、にむしろ興味を覚えます。」とあり、清水幾太郎の文章を読まれて、「恐怖という原始的な感情が日常の行動を決定する」(清水)状況の再来を恐れると書かれています。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10月6日 Tさんへのメール ネットの一部に書かれていた「戦争協力を恥じて戦後一時期、作曲を自粛」という捉え方は違うようですね。公的・国家的な場での大きな音楽から、民間・地域的な音楽への転換、戦後民主主義の音楽への導入のような。むしろ、戦後の高揚感、ウルトラ・ハイの精神状態にあったのかもしれません。 敗戦後、それまで戦争教育に邁進していた教師たちが一斉に教科書に墨を塗って、民主主義教育に切り替えて行った過程は、戦中も戦後も国家や占領軍からの強制に、恐怖心から渋々従ったのではなく、むしろ嬉々として「報国」から「報民」に切り替えただけで、内心は「自己実現」の喜びに燃えていたのではないかと思っています。戦後復興のいきおいを考えると、戦中は恐怖心から諦めだったと言うのとも違うように思います。 圧政・強制の恐怖から渋々協力あるいは投獄されたのは、ほんの一部たぶん1%にも満たない「覚醒した」「まつろわない」ことを表現した人達であり、多くの国民と知識階級はむしろ「報国」の喜びを感じていたのではないかと思います。その点の反省がないのは、やはり被抑圧者あるいは騙された者という立場をとることが、体制の変換に順応して、新たに生き甲斐・自己実現の喜びを見出すために必要な精神コントロールだったのではないでしょうか。圧政・強制のシステムをスムースに適用するためには、その前に大多数の国民と知識階級の順応・同調を作り上げて、恐怖心や圧迫感を感じる自分は少数派だという自覚を持たせなければ抵抗が正当化され、強制のシステムが破綻したのでないでしょうか。「恐怖心が日常を支配する」のは行政システムと治安が崩壊し、食料が行き渡らなくなる状況下、例えばアフリカで見られる内乱と虐殺のような、であって、戦争末期の一年間はその方向に進む中で、恐怖心を持つ国民がが多数派を締めた場合に起きる革命的状況を天皇と軍部は恐れていたと思われます。 芸術家は銃剣を突きつけられて戦争協力の作品を産み出したのであれば、国民をマインド・コントロールできる力のある表現にはいたらないような気がします。もちろん、戦争絵画の中には何じゃこれ?という駄作もたくさんあります。絵画は一過性で受信者の選択可能性が高い表現ですが、音楽表現は人の心にある種の暴力的浸透力があり、たえず聞かされることで定着し、思わぬ高揚感や寂寞感・無常感を産みます。音楽の持つ同調力は持続的で、無意識の領域に達するものがあるのでしょう。人が自らそれを求める気持ちも絵画に較べて強く、バックグラウンドに流れて意識的・無意識的に精神に作用します。 仕事しながら音楽を流すと、私の場合は気持ちがいらついてくることに20年以上前に気づきました。他の工芸家はどうだか知りませんが、民藝愛好家側の書いたものを読むと、その辺の感覚はかなり違うようです。エンヤの音楽に私は不快感を感じますが、多くの人は癒されると感じ、またそれを療法として使うことや巧みに勧誘に利用するケースがあるようです。 明治憲法で制限付きではありますが、信教や表現の自由が認められたことで、むしろ侵略と差別に抵抗する精神が弱められ、現人神と国威に奉仕するあるいは役に立つ宗教・芸術と言う意識が、宗教者や表現者側に発生したのではないでしょうか。弾圧される恐怖から「お役に立つ」喜びへの転化が起きたと思います。人間は継続する強い恐怖心に耐えにくい存在ではないでしょうか。どこかに出口を自ら求めてしまいます。強い意思で持続的する恐怖と向き合うと、夏目漱石のように胃潰瘍になるかもしれませんが、戦争中胃潰瘍が多発したでしょうか。強制と弾圧のシステムが完成する前に、人の心が変化する過程が先行すると思います。 役に立つ学問・芸術・信仰へと自ら転換し、戦果と版図拡大の報告を聞き、自己実現の喜びを感じていたのではないでしょうか。1割ぐらいのまつろわない覚醒した人は、大衆にも知識層にもいたでしょうが、それを表現したさらに1%の人が直接的な弾圧を受けたと思います。その人達に心の軌跡は比較的書き残されて読めるのですが、よろこびに転換した心の軌跡は封印されているように思います。敗戦を境に違う方向に自己実現を求め、クライシスの中でむしろ高揚感を強めたのではないでしょうか。 大正デモクラシーのめくるめくような豊かな表現と、その後の昭和恐慌の閉塞感・無力感、そこから侵略、満州移民、戦争協力、隣組活動、一斉に同調する安心感と自己実現の喜びが大きな基底流だったと思います。それぞれの転換点において、敗北・失敗・問題点を内的に検証せずに転進して行く姿勢は、現在の市民運動側にも見られます。イラク戦争・原発・安保法制それぞれの運動のあり方・方向性・戦略戦術など検証することなく次の運動が提起されて行きます。安保法制成立直後に落選運動/国民連合政府・・・間違いだとは言いませんが、ちょっと待ってくれという気持ちです。官邸前反原連の運動にもSEALDsにも、クライシスにおける自己実現の高揚感と、運動周辺では同調しない人の排除が目立ちます。 今回の運動で改憲の可能性はなくなったという人もいれば、安倍は参院選の争点に改憲を持ってくると言う人もいます。安倍内閣の支持率は高止まりという人もいれば、低下していると言う人もいます。中国の問題・中東の問題、様々な基本的状況分析さえしっかりできていません。観察と解析が不充分なままで、気持ちだけが先行しているように感じます。 話しが重複して読みにくいと思いますが、恐怖心が日常的に行動を決定する極限状況の前に、ほとんどの人においては恐怖心の変換が起きるのではないかと考えます。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
by maystorm-j
| 2015-10-07 08:30
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