2011年 04月 05日
原発周辺で避難生活を続けている多くの人々がいます。他の被災地でも生活の再建が着々と進んでいるとはとても言えませんが、災害直後に較べれば、避難所で暮らしている人は減ってはいます。しかし、原発周辺では、災害は現在進行形です。これから、避難しなければならなくなる人が増える可能性や、近くの避難所にすでに移っている人も、さらに遠方に移らなければならないことも考えられます。放射能汚染地から避難するかどうか、現地の住民や支援する側の苦悩が、以前にも紹介しました「かまたみのる公式ブログ」からたびたび伝わってきます。 原発周辺にいることは「ただちに」ではなくとも、いつ健康が害されるかわからない危険、特に子どもなどなどには大きな影響が考えられます。政府の方針は現在も、20km 以内の避難指示と20~30kmの屋内退避と変わっていません。一方で、法的な裏付けのない自主避難の呼びかけが出ています。すでに自主避難出来る人の多くは移っていて、その行き先がつかめていないケースも多いでしょう。残っているひとの中には、避難が困難な人が多く含まれています。世話をしたい家畜や畑、行方のわからない家族、病気や障害でい移動難しい・・・さまざまな理由があります。放射能は目に見えません。放射能の危険を五感で感知出来ないので、、残りたい理由と対比して自分で判断するためには、危険に関する充分な情報と遠方に避難した場合の今後の予想が提供されていることが必要です。原発に関しては常に楽観的予想を繰り返し、SPEEDI による放射能拡散予測すら公表してこなかった政府の情報操作が、被災者と現地自治体の自己判断を困難にしてきた大きな原因の一つです。この点については、4月3日の記事「封じられる自由 その1・・・放射能拡散予測の不在と気象学会の統制」に書きました。 避難指示などの住民対策については、一般に誤解があると思われます。政府が「避難を命令」していると思っている人が多いようです。それなのに、20km圏内に人が残っていたり、圏外の避難所から圏内に行き来したり、先日は街宣車が原発敷地に入ったという報道があったりしますが、これらは「違法」と思っている人もいます。災害対策基本法には、「避難命令」というものはなく、避難勧告とそれより強い避難指示が規定されていて、原則市町村長(困難な場合は都道府県知事)の判断とされています。警戒区域(立ち入り制限区域)が設定された場合のみ罰則がありますので、避難指示だけでは強制力がないと言う事になります。福島県では国に対し、20km圏を立ち入り制限区域とするよう求めていますが、現在(4月5日)のところ、警戒区域に指定はされていないようです。根拠となる災害対策基本法では、市町村長あるいは都道府県知事が定めることになっていますから、福島県が国に要望するというのは変な気がします。 現地の実情は、警察により立ち入りを取り締まっているようですが、法的根拠がないことになりますので、制止を振り切って圏内に入る人を拘束する事はできません。パトロールは行われていても、残った財産が盗難に遭う心配もあります。法による制限を加えると、それによって生じた被害を補償しなければならなくなるでしょう。曖昧な自主避難や避難指示だけでは、行政の責任回避になります。現地の市町村は被災で行政機能が落ちていますし、隣接する市町村がバラバラに警戒区域を設定するのも問題がありますが、県が設定した上で実施については国の支援をあおげばいいのではないでしょうか。法律専門家の発言が見えてきません。 立ち入り制限区域の設定に関しては、急を要する現在の問題であると同時に、今後長期にわたる放射能汚染地域での居住や生産活動の問題にもなります。日本国憲法には基本的人権の一部として、第二十二条「 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」とあります。新憲法を作った時には、広島・長崎の原爆投下後も残留放射能の影響が長く続くということは、たとえ判ったとしても占領軍によって封じられたでしょうし、日本が原子力を持つことはないという意識が強く、公共の福祉に反しないにも関わらず、長期に「居住、移転、職業選択の自由」を制限しなければならない事態を具体的に想像出来なかったのかもしれません。しかし、憲法に定められた自由を制限しなければならないとしたら、相当な覚悟をもって制限される人々の保障体制をつくる必要があります。 これから農地や海の汚染が進むことが予想されます。その結果、これまで続けてきた農業や漁業が出来なくなる地域も出てくるでしょう。生産者側は残留放射能の基準を緩和するように求めがちですが、消費者の安全のために明確な基準のもとで制限を加えなければ、食品の安全に対する信頼がこわれて、結局はさらに広範囲の生産物が売れなくなります。輸入食品の需要が増えて、都会に住む人に多いTPP 賛成の意見に勢いがつき、食料自給率はさらに低下し、農業・水産業は全国的に打撃を受けます。 汚染地域では、実質的に「職業選択の自由」が制限されます。他所へ行くか、職業を変えるか「自主的判断で勝手にどうぞ」とか、生産物が売れなければ転出か転職するだろう、というような無責任なことが、国が意図しなくても、実際は時間の経過とともに進んでしまいます。憲法は、他の法律のように国民を縛るものではなく、国家を縛るものです。国家が憲法に反して国民を縛らなければならないとしたら、相当の覚悟を持って縛られる国民の救済方法を早急に提示しなければなりません。 最後に、福島原発が引き起こしている事態を理解する助けとして、チェルノブイリのその後を参考にしたいと思います。YouTube にNHK のドキュメンタリー番組「汚された大地で〜チェルノブイリ 20年後の真実〜」が、5分割されて出ています。 [1] [2] [3] [4] [5] 著作権の問題もあるかもしれませんが、NHK に聴視料を払っている人は当然の権利として、私のように払っていない人は「自己判断」で、ご覧下さい。 追記 過去の震災では、バラバラに避難した人や家族に、ライフラインの細かい復旧状況や仮設住宅募集、見舞金や融資の情報など、地元に戻って生活を再開するために必要な情報が伝わりにくかったという反省ありました。できるだけ同じ地域の人々が集まって避難するとか、市町村役場の職員などの連絡役を同行させるなどの手当が必要かもしれません。メール配信やYouTube などで、出身地の情報をまめに伝えることが重要でしょう。市町村ごとに時間をきめて、携帯でも受信出来るインターネット放送を始める事はできないでしょうか。 4月6日 追記 災害対策基本法により、避難指示、避難勧告および警戒区域の設定は、市町村長あるいは都道府県知事による、と書きましたが、今回の原発事故は「原子力災害対策特別措置法」による緊急事態ということで、原子力災害対策本部が国によって設置され、本部長は総理大臣ということのようです。なお6日現在で、福島県知事から警戒区域の設定が要望されていますが、まだその決定はでていません。
by MAYSTORM-J
| 2011-04-05 06:19
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